退職金の支払いは義務?中小企業が導入を判断するためのメリット・デメリットと注意点


はじめに

「退職金制度を導入したほうがいいのか迷っている」

「同業他社は設けているところが多いけれど、うちでも必要なのだろうか?」

こうしたご相談を中小企業の経営者様からよくいただきます。

結論から言うと、退職金の支給は法律上の義務ではありません。

法律で「退職金を支給しなければならない」と定められているわけではなく、退職金制度を設けるかどうかは、会社の判断に委ねられています。

しかし、一度退職金制度を設けて規程等に「支給する」と定めた場合や、長年にわたって支給を続けてきた場合には、そのルールや運用が労働契約の一部として法的拘束力を持つようになり、結果として退職金の支給義務が発生することがあります。


この記事を書いた人

よしもと国際行政書士・社会保険労務士事務所 代表

行政書士・社会保険労務士

吉本 祐樹(Yuki Yoshimoto)


この記事では、退職金制度を導入すべきか判断するために必要なメリット・デメリット・最近の退職金に関する企業動向・注意点を、社労士の視点からわかりやすく整理します。

導入を検討されている方が、自社にとって本当に必要かどうかを判断する一助になれば幸いです。

退職金とは?法律上の位置づけ

退職金(退職手当)は、従業員が退職する際に支払われる金銭であり、「労働の対価」というよりも、長期勤務に対する功労報酬・生活保障の意味合いが強いものです。

労働基準法では退職金の支給義務は定められておらず、制度を設けるかどうかは企業の自由です。

退職金の支給義務が発生するケース

法律上は任意の制度でも、会社のルールや運用によって支給が義務化することがあります。

就業規則・退職金規程で「支給する」と明記している場合

例:「勤続3年以上の従業員に退職金を支給する」、 「会社は退職時に所定の算定基準により退職金を支給する」といった文言が就業規則にあったり、退職金規程を作成し同様の規定がある場合

このように明確に「支給する」と書かれている場合、就業規則は労働契約の一部とみなされるため、退職金の支払いは会社の法的義務となります。

👉 経営が悪化しても、規程どおりの支給を拒否することはできません。

労働契約書や雇用契約書で支給を約束している場合

労働者との個別契約書に「退職金を支給する」と記載している場合には、その記載内容に基づき、会社には退職金を支払う義務が生じます。

通常、労働者と個別に契約した労働契約の内容が就業規則と異なる場合には、原則として就業規則の定めが優先されます(労働契約法第12条)。

しかし、このケースのように契約書の内容が就業規則よりも労働者にとって有利な内容であれば、その部分については契約内容が優先されます。

長年の慣行として退職金の支給が行われていた場合

就業規則に退職金についての定めがなく、退職金規程も設けられていない場合であっても、長年にわたり従業員に対して一定の基準で退職金を支給してきた実績がある場合には、その運用が「労働慣行」として定着し、退職金を受け取ることへの「労働者の期待権」が認められることがあります。

このような場合、退職金の支給は黙示的に労働契約の一部となり、会社には支給義務が生じる可能性があります。

最近の企業動向と導入状況

厚生労働省「就労条件総合調査(令和5年)」によると、退職給付制度を導入している企業の割合は次のとおりです。

企業規模退職金制度ありの割合
全体平均74.9%
1,000人以上90.1%
300〜999人88.8%
100〜299人84.7%
30〜99人70.1%

制度の形態は、「退職一時金制度のみ」が約69%と最も多く、「退職年金制度のみ」が9.6%、「両制度を併用している企業」が21.4%です。

退職一時金制度は、退職時にまとまった金額を一括で支給する仕組みで、中小企業ではこの方式が主流です。

一方、退職年金制度は、退職後に分割して年金形式で支給する制度で、大企業や長期雇用を前提とした企業に多く見られます。

📉 制度導入率は平成30年の80.5%からやや低下しており、支給額も大卒・勤続35年以上・定年退職者の平均で約2,000万円台前半と減少傾向にあります。

この背景には、

終身雇用の崩壊や人材の流動化

将来の支払負担に対する不安や制度運営の煩雑さ

退職金を支払うよりも、給与・賞与の額を増額して処遇する傾向

などがあり、制度を廃止・見直す中小企業が増えています。

💡 一方で、外部制度を活用して退職金制度を導入する企業もです。

代表的なのが、中小企業退職金共済制度(中退共)です。

中退共は、事業主が毎月一定の掛金を納めることで、従業員の退職時に共済から退職金が支給される国の制度です。

掛金は全額損金(経費)算入ができ、加入や運営の手間も少ないため、中小企業でも導入しやすい仕組みとして広く利用されています。

退職金制度を導入するメリット・デメリット

メリット

・長期雇用・定着のインセンティブになる

・採用時の信頼感・安心感を与えられる

・福利厚生の充実による従業員満足度の向上

・退職金として積立した費用が損金計上できる(例えば、中退共は掛金全額が損金計上可能)

デメリット

・長期的な積立が必要になるため、その分費用もかかる

・制度改定や廃止が難しく、柔軟性に欠ける(いったん退職金制度を作って、やっぱりやめるというのは難しい)

・管理コスト・会計処理・制度運用の手間がかかる

・中退共や保険に加入して退職金を積立てる場合、短期間で退職されると払い損になるケースがある

FAQ(よくある質問)

Q1. 退職金は法律で義務づけられていますか?

A1. いいえ。

退職金の支給は法律で義務づけられていません。制度を設けるかどうかは会社の判断に委ねられています。

Q2. 退職金制度を導入すると支給義務が発生しますか?

A2. 就業規則や契約書で「支給する」と定めた場合、その内容が労働契約の一部となり法的拘束力を持ちます。

長年の慣行による支給も義務化されることがあります。

Q3. 中小企業でも退職金制度を導入している企業は多いですか?

A3. 厚生労働省の調査(令和5年)によると、退職給付制度を導入している企業は全体で約74.9%、従業員30〜99人規模の企業でも約70%が導入しています。

まとめ

退職金制度は、法律で義務づけられているものではありません。

しかし、就業規則や労働契約、または長年の支給慣行によって、実質的に支給義務が発生する場合があります。

制度を導入することで、従業員の定着率や企業イメージの向上といった効果が期待できる一方、将来的な支払負担を見越した慎重な制度設計が欠かせません。

中小企業では、中退共や民間の積立保険など外部制度を活用して、無理のない形で退職金制度を整備するケースも増えています。

当事務所では、

退職金制度の設計

・退職金規程の作成

・就業規則の見直し

をはじめ、中小企業の「人事労務」と「外国人雇用」に関するご相談をトータルでサポートしています。

退職金制度の導入や見直しを検討している会社様、あるいは外国人社員を含めた処遇設計にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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