外国人社員にも退職金は必要?国籍による差別的取扱いの禁止と合理的な区別を社労士が解説


はじめに

外国人社員を雇用する企業が増える中で、

「退職金は日本人社員と同じように支給しなければならないのか?」

というご相談を受けることが多くなってきました。

退職金は法律で義務づけられている制度ではありませんが、退職金制度を設けている場合、国籍を理由に退職金の有無や金額を変えることは、原則として違法になります。


この記事を書いた人

よしもと国際行政書士・社会保険労務士事務所 代表

行政書士・社会保険労務士

吉本 祐樹(Yuki Yoshimoto)


本記事では、労働基準法第3条に定められた国籍による差別的取扱いの禁止と、合理的な区別が認められるケースを、社労士の視点からわかりやすく解説します。

外国人社員への退職金支給は義務なのか?

外国人社員への退職金支給は、労働基準法などの法律で義務づけられているものではありません。

ただし、就業規則・労働契約・長年の労使慣行によって退職金支給が制度として定着している場合には、外国人社員にも退職金の支給義務が生じることがあります。

外国人であっても、労働基準法上の「労働者」として保護されるため、退職金制度を設けている場合に、外国人であることのみを理由として支給対象から除外することは、原則として認められません。

労働基準法3条による差別的取扱いの禁止

労働基準法3条には、以下のように定められています。

「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、
賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならない。」

この条文は、日本人・外国人を問わずすべての労働者に適用されます。

したがって、国籍を理由に退職金制度の対象外とすることや、支給額を減額することは原則として違法です。

外国人社員を退職金制度から除外してよいケースはある?

上記のように原則として、国籍を理由として外国人社員を退職金制度から除外するという扱いは許されません。

ただし、職務内容」「雇用形態」「契約期間」などに基づく合理的な理由がある場合は、国籍を理由にした差別ではないため、退職金制度の適用の有無、退職金額や支給条件に差を設けることが認められることもあります。

雇用期間・契約期間の違いと退職金支給要件

退職金制度は、会社がその内容を自由に設計できる制度です。
そのため、雇用期間・契約期間に応じて退職金が受給できなかったり、支給額に差が生じることは自然なことであり、法律上も問題ありません。

例えば、外国人社員が3年程度の比較的短期間の雇用である場合でも、退職金の支給要件を「勤続5年以上」と定めている場合には、支給対象外となるのが原則です。

また、勤続年数を基準に退職金額を計算する制度では、勤務期間が短いほど支給額が少なくなるのも当然の結果といえます。

このように、会社として長期勤続者の貢献に報いる趣旨で制度を設ける場合には、

「継続して5年以上勤務した社員に支給する」

といった支給年数に関する規定を就業規則等で明確に定めておくことで、適切に運用することができます。

職務内容・責任の違い

退職金額の差が、等級制度・役職・職務内容・責任範囲など、組織上の立場の違いに基づく場合には、合理的な区別として認められます。

たとえば、日本人社員と外国人社員が同期入社であっても、

・日本人社員はマネジメント層として部下の育成や取引責任を負う

・外国人社員は補助的業務や限定的な職務範囲に従事している

といった場合、職務や責任の重さに応じて退職金額が異なるのは当然であり、法的にも問題ありません。

評価制度に基づく差

同じ職務内容であっても、個々の成果や勤務態度の評価によって退職金額に差が生じることもあります。

この場合、その理由が国籍ではなく、客観的な人事評価に基づくものであれば、合理的な取扱いと判断されます。

たとえば、

・成果目標の達成度

・能力評価や勤務態度

・貢献度・役職の有無

などに基づいて差が生じる場合です。

ただし、評価基準が不透明であったり、実質的に国籍が影響しているような場合には、差別的取扱いとみなされるおそれがあります。

それに対しては、

・評価基準を就業規則や退職金規程に明記する

・社員に基準・手続を周知する

・査定表や評価記録を保存する

といった評価の透明性確保が不可欠です。

外国人社員に関する退職金制度 ― 実務上の注意点

退職金制度を外国人社員にも適用する場合、以下のポイントに注意が必要です。

退職金制度を設けている場合は、その旨・算定基準・支給条件を外国人にも理解できる言語(英語等)で周知する

特に技能実習・特定技能など短期在留の外国人には退職金制度適用の範囲を明確にしておく

※適用除外したい場合は支給要件の年数等で調整をする(ただし、すでに実施している退職金支給要件を変更する場合には労働者に対する「不利益変更」に該当する可能性がありますので、慎重な対応が必要です

合理的な区別を行う場合は、その理由を説明責任を果たせるよう記録を残す

特に、「なぜ退職金が支給されないのか」、「なぜ自分だけ退職金額が少ないのか」を質問された際に、国籍を理由に支給しない、額が少ないわけではないことを明確に説明できるようにしておくことが重要です。

トラブルを防ぐための退職金制度設計のポイント

・外国人社員を含め、全従業員に公平な退職金ルールを設定する

・退職金制度を設ける場合は、就業規則・退職金規程・個別契約書に明確に組み込み、「退職金制度の有無・対象者・計算方法」を明記し、説明責任を果たす

・不利益変更(廃止・減額)を行う場合は、その合理性を時間をかけて労使協議し、周知期間を設けて慎重に行う

これらを実践することで、外国人社員とのトラブル防止だけでなく、企業の信頼性や雇用の安定にもつながります。

まとめ

外国人社員であっても、国籍を理由に退職金制度の対象から除外することは原則として認められません。

労働基準法3条が定めるとおり、国籍による差別的取扱いは禁止されており、合理的な理由がない限り、外国人社員も本人社員と同様に退職金制度を適用する必要があります。

一方で、職務内容・責任範囲・勤続年数・評価結果といった業務上の要素に基づく差であれば、合理的な区別として認められる場合もあります。

そのためには、制度内容を明文化し、社員への説明や記録の保存管理を徹底することが重要です。

退職金制度の設計・運用にあたっては、国籍を問わず公平かつ透明性の高いルールを構築することが、トラブルを防ぎ、企業の信頼を高めるための第一歩となります。

当事務所では、外国人社員を含む人事労務管理・退職金制度設計・就業規則改定をはじめ、外国人雇用と社会保険の両面から中小企業をトータルでサポートしています。

外国人社員の退職金制度や労働条件の見直しでお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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