【2026年最新】外国人の脱退一時金は上限8年へ!育成就労・特定技能で変わる実務ポイントを社労士が解説


はじめに

今回は、技能実習制度に代わる育成就労制度の創設に伴って大きく見直される脱退一時金制度について、実務上のポイントに絞ってわかりやすく解説します。

現在の脱退一時金は、計算に使う加入期間の上限が5年(60か月)です。

これは2021年4月に、従来の3年から引き上げられたものです。

今後、この上限は8年へ引き上げられることが決まっています。

その理由は、育成就労制度の開始により、育成就労から特定技能へ移行して働く外国人の、日本における就労期間の想定そのものが変わるからです。


この記事を書いた人

よしもと国際行政書士・社会保険労務士事務所

行政書士・社会保険労務士

吉本 祐樹(Yuki Yoshimoto)


この記事では、なぜ上限が5年から8年へ変わるのか、申請の際にどのような点に注意すべきか、そして外国人本人が今後、脱退一時金を受給すべきかどうかをどう判断すべきかという3つのポイントに絞って整理します。

そもそも脱退一時金とは?

脱退一時金とは、日本で年金保険料を納めていた外国人が、一定の条件を満たして帰国した場合に、あとから請求して受け取ることができる一時金です。

ただし、ここで押さえておきたい大事なポイントがあります。

それは、支払った保険料がそのまま全額返ってくる制度ではないということです。

支給額は法令上の計算式で決まり、しかも一度受け取ると、それまでの年金加入期間(被保険者期間)はリセットされます。

つまり、脱退一時金は「帰国するから、とりあえず請求すれば得」という単純なものではありません。

将来も日本で生活する場合は、脱退一時金を請求したことで加入期間が失われ、老後の年金の受け取りや受取額に影響する可能性があります。

なぜ脱退一時金の上限が「8年」へ変わるのか?

今回の見直しの理由は、今後の外国人就労のルートが変わるためです。

技能実習制度に代わる育成就労制度が、2027年4月1日からスタートすることがすでに決定しています。

これにより、育成就労で3年間就労し、その後に特定技能1号へ移行して5年間働きトータルで8年働くという就労ルートが今後増加することが想定されます。

この新制度において、もし脱退一時金の上限が5年のままだと、育成就労から特定技能へ進んで合計8年間年金に加入したとしても、脱退一時金の計算に反映されるのは5年分のみになります。

こうした不合理を避けるために、今回の見直しでは、脱退一時金の計算上限を5年から8年へ引き上げることになりました。

これは、外国人を特別に優遇する改正というよりも、育成就労制度の創設に合わせて、脱退一時金のルールも実態に合わせる改正と理解するのが適切です。

「8年へ変わる」=「8年分が全額戻る」ではない

ここは誤解しやすい点になりますので、整理しておきます。

「8年へ変わる」というのは、8年間支払った年金保険料がそのまま全額戻ってくるという意味ではありません。

正確には、脱退一時金の支給額を計算する際に反映できる加入期間の上限が、5年から8年に伸びるということです。

実際の支給額は、法令で定められた計算式に基づいて算出されます。

そのため、「8年分が丸々返ってくる」という説明ではなく、あくまで計算上の上限が伸びるということです。

参考:上限5年の計算表

これは、上限5年の計算表ですが、今後の政省令・機構資料で具体的な計算区分が示される見込みです。

被保険者であった期間支給率計算に用いる数支給率
6月以上12月未満60.5
12月以上18月未満121.1
18月以上24月未満181.6
24月以上30月未満242.2
30月以上36月未満302.7
36月以上42月未満363.3
42月以上48月未満423.8
48月以上54月未満484.4
54月以上60月未満544.9
60月以上605.5

出典:日本年金機構ホームページ

いつから8年になるのか?

ここも重要なポイントです。

脱退一時金の上限が8年へ見直されることは決まっていますが、2026年3月時点ではまだ5年のままです。

施行日は、2025年6月20日の公布から4年以内の政令で定めるとされており、具体的な開始日は今後確定します

つまり、改正内容は決まっていますが、実際にいつから適用されるかは、今後の施行日を確認する必要があります。

そのため、現時点では、次のように理解しておくのがよいでしょう。

・将来的には、脱退一時金の上限は8年へ変わる

・ただし、今すぐの請求は現行制度を前提に判断する

・実際の適用時期は、今後の施行日を確認する必要がある

もう一つ重要なポイント 受給ルールも厳しくなる

今回の改正は、単に上限8年に伸びるだけではありません。

受給ルールも厳しくなる方向です。

具体的には、再入国許可(みなし再入国許可を含む)を得て出国した場合、その許可の有効期間内は脱退一時金を支給しないという方向で見直されます。

これは、一時帰国などの際、安易に脱退一時金を受け取ってしまうと、それまでの加入期間がリセットされることで、将来の日本の年金を受給できなくなる場合や、受給額が少額になることを防ぐためです。

※詳細はこちらの記事で詳しく解説しています。

今後、脱退一時金の請求をどう考えるべきか?

判断のポイントは、今後、日本で長く在留・就労する見込みがあるかどうかです。

今回の法改正で特に重要なのは、法施行後は、再入国許可を得て出国している間は脱退一時金を受給できなくなるということです。

その一方で、脱退一時金の計算上限は5年から8年へ引き上げられるため、これまでより多く受け取れる可能性が出てきます。

しかし、長く日本で働く人については、あと少し加入期間を積み上げれば日本の年金を受け取る権利を得ることができる可能性もあります。

つまり今後は、単に「脱退一時金を請求できるか」だけではなく、今ここで脱退一時金を受け取るのがよいのか、それとも将来年金を多く受け取れるようにした方がよいのか、という視点で考えることが非常に重要になります。

これまでは、例えば技能実習で3年働いた後に母国へ帰国し、再び日本に来る予定のない外国人も多く、そのような方にとって、脱退一時金は非常に合理的でシンプルな制度でした。

しかし今後は、育成就労から特定技能へ進み、今まで以上に日本で長期的に働くケースが増えていきます。

そのため、脱退一時金を請求するかどうかは、今後また日本で働く可能性があるか、日本の年金を受け取る権利を残すべきかまで含めて判断する必要があります。

脱退一時金を請求すれば、一時金を受け取ることはできますが、その代わりに、それまでの年金加入期間はリセットされます。

一方で、日本での加入期間が10年に達すれば、日本の年金を受け取ることができる権利を得ることができます。

そのため、今後も日本で長く在留・就労する見込みがある方は、目先の脱退一時金を受け取ることだけでなく、将来の年金受給権を得た方がよいか、という視点でも考えることが大切です。

これに対し、今後日本に戻る予定がなく、長期在留の見込みもない方であれば、脱退一時金を請求する選択が現実的な場合もあります。

特に慎重に判断したいケース

育成就労から特定技能へ進む予定の方

まさに今回の「8年見直し」の中心となる方です。

育成就労(3年)と特定技能1号(5年)で、年金加入期間は合計8年に及ぶ可能性があります。

さらに、その後も特定技能2号などで日本で働き続ければ、あと約2年で年金を受け取れるようになる10年(受給資格期間)に到達する可能性があります。

受給資格期間が10年以上になると、将来日本の老齢年金を受け取れるので、脱退一時金は請求できません。

そのため、この2つの在留資格の方は、脱退一時金を受け取るか、それとも日本での就労を続けて将来の年金受給権を目指すかを慎重に考える必要があります。

今後も日本で長く在留・就労する見込みがあるなら、一時金よりも、将来の年金受給年金額を多くすることを優先した方がよい場合があります。

逆に、今後日本に戻る予定がなく、長期で日本に在留する見込みもない場合は、脱退一時金を請求する選択が合理的なようにも思えます。

なお、この考え方は育成就労から特定技能へ進む方だけの問題ではありません。

今現在、技能実習や特定技能1号・2号で働いている方についても、日本での在留・就労が長期に及ぶ場合は、脱退一時金を請求するかどうかを、将来の年金受給権も踏まえて判断することが重要です。

一度帰国するが、将来的に日本に戻る可能性がある方

いったん帰国しても、将来再び日本で働く可能性がある方も慎重な判断が必要です。

脱退一時金を請求すると、それまでの加入期間はなくなります。

そのため、将来再来日して働く可能性があるなら、一時金を受け取ることが自分のライフプランにとって本当によいことなのかをよく考える必要があります。

「とりあえず請求しよう」と考えている方

脱退一時金は、一時金を受け取れる反面、それまでの加入期間はなくなります。

特に、将来も日本で生活する予定がある方にとっては、老後資金としての年金はとても重要です。

目先の一時金だけで判断せず、本当に請求して老後に困ることがないのかを慎重に考えることが大切です。

社会保障協定のある国の方は、年金加入期間の通算にも注意

日本と年金加入期間の通算がある社会保障協定国の方は、母国の加入期間も含めて考える必要があります。

たとえば、母国で3年、日本で8年の年金加入期間がある場合は、通算して11年になります。

この場合、通算により日本の老齢年金の受給資格期間である10年を満たすため、将来65歳以降に年金を受け取る権利が生じ、脱退一時金は請求できなくなります。

さらに、いったん脱退一時金を受け取ると、日本での加入期間はその後の通算にも使えなくなります。

社会保障協定のある国の方は、脱退一時金を請求する前に、将来の年金受給の可能性を必ず確認することが重要です。

社会保障協定を結んでいる国一覧(日本年金機構ホームページ)

社会保障協定については、別記事で詳しく解説します。

まとめ

今回の改正で押さえておきたいポイントは、次のとおりです。

・育成就労制度の創設により、3年(育成就労)+5年(特定技能1号)=8年という形が想定される

・これに合わせて、脱退一時金の計算上限も5年から8年へ見直される

・あわせて、再入国許可で出国した場合の取扱いなど、受給ルールも厳格化する方向である

・今後は、将来の在留予定や年金受給の可能性も踏まえて脱退一時金の請求を判断することが重要になる

これまで、脱退一時金は「多くのお金がもらえるので、帰国するなら請求したほうがいい」と考えられがちでした。

しかし今後は、長く日本で働く外国人が増えることを前提に、本当に今請求するのがよいのか、それとも将来の年金受給権を残した方がよいのかを考える必要があります。

特に、育成就労や特定技能に関わる外国人の方や企業担当者様は、今後の施行日や運用ルールも含めて、早めに最新情報を確認しておきましょう。