はじめに
「一時帰国のついでに、脱退一時金も申請してしまおう」
「再入国許可を取って帰国し、現在の在留資格(ビザ)も維持したいけど、脱退一時金は受け取れるのか?」
これから、このような不安を抱える外国人の方が増えることが予想されます。
なぜなら、2025年の年金制度改正により、「再入国許可(みなし再入国を含む)を取って出国した人」の脱退一時金のルールが大きく変わることになったからです。

【この記事を書いた人】
よしもと国際行政書士・社会保険労務士事務所 代表
行政書士・社会保険労務士
吉本 祐樹(Yuki Yoshimoto)
この記事では、脱退一時金の法改正の要点(取扱いの変更点)と、出国前に整理しておくべき実務上の留意点をまとめました。
改正の結論:再入国許可があると「脱退一時金はすぐに請求できない」
今回の改正で最も重要なポイントは以下の1点です。
これまでは、一時帰国(再入国許可を得ての出国)であっても、日本に住所がなく、国民年金や厚生年金の被保険者資格を喪失等の要件を満たしていれば脱退一時金を請求することが可能でした。
しかし、
再入国許可(みなし再入国を含む)を得て出国した場合、その許可が有効な間は脱退一時金を受給できなくなります。
つまり、
脱退一時金を受け取るためには、在留資格(ビザ)の喪失が必須になるということです。
| 項目 | これまで | 改正後 |
|---|---|---|
| (みなし)再入国許可での出国 | 請求できる場合があった | 再入国許可が有効な間は受給不可 |
| 在留資格を放棄して出国 | 請求できる | 請求できる |
※施行日は、法律の公布後「4年以内に政令で定める日」とされており、いつから始まるかは今後の公表で確定します。
なぜ脱退一時金の法改正が行われたのか?
①脱退一時金は、帰国等により 日本国内に住所がなく、かつ 公的年金の被保険者ではない 外国人が、一定の要件を満たす場合に請求できる制度です。
そのため、元々日本に戻る予定で出国した人 については、「日本を離れる人のための制度」という前提と整合しないことから、制度上、在留を継続する前提のまま脱退一時金の受給を抑制する目的があります。
特に永住資格者(日本で永住するつもり)が脱退一時金を請求するケースもあり、年金制度の趣旨との整合性が取りづらく制度への批判も多かったため、今回の見直しは、その点を明確にする趣旨といえます。
➁一時帰国のついでに脱退一時金を受け取りを繰り返してしまうと、その都度、年金加入記録が消えて将来年金が受け取れず、または年金が少なくなり生活が困窮することを防ぐため
そもそも「再入国許可」・「みなし再入国許可」って何?
再入国許可とは、在留資格(ビザ)を維持したまま一時的に出国し、再入国後も同じ在留資格で日本に滞在を続けられるようにする制度です。
再入国許可には、主に次の2種類があります。
・みなし再入国許可:在留カードを持っている方が、出国時に「再入国する意思」を示して出国し、原則として出国日から1年以内(※特別永住者は2年以内)に再入国する場合などに利用できます。
・再入国許可(通常の再入国許可):出国前に申請して取得する再入国許可で、より長期の出国など、状況に応じて利用します(有効期間は一定の範囲内で付与されます)。
脱退一時金の見直し後は、再入国許可(みなし再入国許可を含む)を受けて出国した外国人については、許可の有効期間内は脱退一時金を受給できないという取扱いになります。
なお、厚労省資料では、再入国しないまま再入国許可期限を経過した場合には受給が可能となります(ただし、住所要件など他の受給要件を満たす必要があります)。
脱退一時金は「日本を離れる人向け」の制度
脱退一時金は、帰国などにより日本の公的年金制度から離れる外国人が、一定の条件を満たした場合に受け取れる一時金です。
そして見落とされがちですが、脱退一時金には重要な性質があります。
脱退一時金を受け取ると、これまでの年金加入期間は将来の年金に反映されない
実務上、脱退一時金のご相談を受けると、「とにかく目先のお金を受け取りたい」という理由で検討される方が多い印象です。制度として認められている以上、請求自体が問題になるわけではありません。
ただし、お話を詳しく伺うと、本当は将来、日本で長く生活したい、あるいは永住も視野に入れているという方も少なくありません。
たしかに、近い将来の帰国が確定している方にとっては、脱退一時金を受給しても影響が小さい場合があります。
しかし、長期的に日本で暮らす可能性がある方や、永住を希望している方にとっては、将来の年金に関して不利益が生じる可能性があります。
特に大切なのは次の点です。
脱退一時金を受け取った場合、原則として、請求対象となった加入期間はなかったものとされ、将来の年金の計算に使われない扱いになります。
つまり、将来日本で年金を受け取るには、また一から保険料を払って年金受給要件を満たさなければなりません。
老後の生活費の確保という視点から見ると、「今の現金」だけで判断せず、将来の見通しも踏まえて一度慎重に検討することをおすすめします。
「将来、また日本で長く暮らすかもしれない」「永住も考えている」という方ほど、目先の現金だけで決めてしまうと、結果的に老後の生活が困難になる可能性が出てきます。
よくある質問
Q1. 脱退一時金の法改正はいつから変わりますか?
A.2025年の法改正により、施行日は「公布から4年以内に政令で定める日」とされています。
開始時期は今後の公表で確定するため、申請前には必ず最新の公式情報をご確認ください。
Q2. 今回の改正は、みなし再入国許可でも影響ありますか?
A. はい、再入国許可だけでなく、みなし再入国許可についても同様に制限される方向です。
Q3. 一時帰国ではなく、完全に帰国する場合はどうなりますか?
前提が「完全に日本を離れる」場合は、以前と変わらず脱退一時金の一般的な要件(住所・資格・期限など)に沿って判断されます。
まとめ:将来のプランを慎重に立てましょう
今回の改正で押さえるべきポイントは、次のとおりです。
・再入国許可(みなし再入国含む)で出国した場合、許可が有効な間は脱退一時金は受給できない取扱い
・脱退一時金の受給は、原則として在留資格(ビザ)の喪失が前提
・受給すると、対象期間は将来の年金(受給資格期間・年金額)の計算に反映されない
したがって、判断の軸は「今の現金」ではなく、将来の生活設計(日本に戻る可能性・永住の方針)に置く方がよいかと思います。
今回の改正により、「とりあえず一時帰国のついでに脱退一時金を申請する」という選択は難しくなる方向です。
だからこそ、出国前に “在留の方針” と “年金の扱い” をセットで整理しておくことが重要です。
ケース① もう日本に戻る予定がない(帰国後は母国で生活する)
この場合は、将来日本で年金を受け取る予定がないことが多いため、脱退一時金を請求する選択肢が合理的になり得ます。
※ただし、住所要件・被保険者資格の状況・請求期限など、一般的な受給要件の確認は別途必要です。
ケース② 日本に戻る可能性がある・将来、永住も視野に入れている
この場合は、たとえ一度帰国するタイミングがあっても、脱退一時金は安易に請求しない方が安全です。
なぜなら、脱退一時金を受け取ると、原則として 対象となった加入期間が将来の年金計算に使われない扱いとなり、結果として 、将来受け取れる年金が減る(または受け取れなくなる)リスクがあるためです。
「また日本で働くかもしれない」、「永住を取りたい」と考えている方は、目先の現金だけで決めず、年金を受給し、将来もらえる額を増やすという視点で、長期的に検討することをおすすめします。
ご相談をご希望の方へ(当事務所でできること)
脱退一時金は、年金の話に加えて、在留資格(ビザ)・社会保険が絡んできます。
前提が少し違うだけで結論が変わるため、ネット情報だけで判断すると遠回りになるケースが少なくありません。
当事務所では、行政書士(在留資格・ビザ)・社労士(社会保険手続)の両面から、脱退一時金の申請サポートを提供しております。

