脱退一時金とは?対象者・条件・申請方法・税金までやさしく解説(外国人向け)


はじめに

日本で働いた(または国民年金に加入していた)外国人の方が、帰国などで日本の年金制度から離脱するとき、一定の条件を満たせば「脱退一時金(だったいいちじきん)」を請求できる場合があります。

ただし、脱退一時金は「誰でも」「いつでも」もらえる制度ではありません。

特に、①住民票(住所)の整理、②請求期限(原則2年)、③厚生年金の税金(20.42%)の3点でつまずく方が非常に多いです。


この記事を書いた人

よしもと国際行政書士・社会保険労務士事務所 代表

行政書士・社会保険労務士

吉本 祐樹(Yuki Yoshimoto)


この記事では、まず何を確認すべきかから、申請の流れ・税金(還付)・よくある失敗まで、実務目線で整理します。

脱退一時金とは

脱退一時金とは、日本国籍を有しない方が、国民年金・厚生年金保険の被保険者資格を喪失して日本を出国し、一定の要件を満たす場合に、日本の年金制度を離れる際に受け取れる可能性がある一時金です。

外国人であっても、社会保険の加入要件に該当する場合は、原則として強制的に加入することとなります。

年金を受給するためには、原則10年以上の加入期間が必要ですが、受給前に帰国する場合、支払った保険料が結果的に掛け捨てになってしまうことがあります。

こうした掛け捨てを一定程度防ぐために、納めた年金保険料の一部を払い戻す制度が「脱退一時金」です。

脱退一時金は、日本で加入していた年金(国民年金か厚生年金)で取扱いが決まります。
目安としては次のとおりです。

・会社員・会社役員(一般に第2号)→ 厚生年金の脱退一時金

・個人事業主・フリーランス(一般に第1号)→ 国民年金の脱退一時金

・扶養に入っていた配偶者(第3号)
→ 第3号の期間は、原則として本人が保険料を納めていないため、第3号の期間だけでは脱退一時金の対象になりません。ただし、過去に国民年金(第1号)として保険料を納付していた期間や、会社員として厚生年金に加入していた期間がある場合は、その加入・納付状況により脱退一時金を請求できる可能性があります。

上記の記載は、職業による一定の目安になります。他の年金の加入期間があれば、両方の年金から脱退一時金を受け取れる場合もあります。

脱退一時金の支給要件

脱退一時金には要件があり、以下の①~⑦のすべてを満たす必要があります。

①日本国籍を有していない

②公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でないこと

③国民年金または厚生年金保険(共済組合等を含む)に6月以上加入し、保険料を納付していたこと
※国民年金に加入していても、保険料が未納の期間は要件に該当しません。

④年金を受ける権利を有していないこと(老齢年金の受給資格期間10年を満たしていないこと)

⑤障害年金等の年金を受ける権利を有したことがない

⑥日本国内に住所を有していない

⑦最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)

国民年金と厚生年金で何が違う?

国民年金

国民年金の脱退一時金は、年度ごとの取り扱い(最後に保険料を納付した月が属する年度等)や月数区分に基づいて算定されます。

厚生年金(会社員など)

厚生年金の脱退一時金は、給与額が高く、加入期間が長いければ長いほど年金額が増える制度となっています。

そのため、脱退一時金も給与額が高く、加入期間が長い人の方が、支払保険料が多くなりますが、脱退一時金の額も多くなります。

国民年金とは異なり厚生年金の脱退一時金は課税対象で、非居住者が受け取る場合、支給時に20.42%が源泉徴収されます。

ただし、手続きを行うことで一定額が還付されます。

【比較】国民年金と厚生年金の違い

加入していた年金の種類によって、もらえる金額やルールが異なります。

項目国民年金(自営業・学生など)厚生年金(会社員・会社役員など)
金額の計算納付月数に応じて固定(段階的)給与の額と加入期間で決まる
税金非課税約20.42%が源泉徴収される
税金の還付不要手続きをすれば一部還付される

脱退一時金の計算方法(国民年金/厚生年金)

国民年金の脱退一時金(計算の考え方)

脱退一時金 = 最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額 × 2分の1 × 支給額計算に用いる数

「支給額計算に用いる数」は、納付済期間等の月数で決まります(6か月以上が前提)。

もらえる脱退一時金の目安(国民年金)

最後に保険料を納付した月が2025年(令和7年)4月から2026年(令和8年)3月の場合
※日本年金機構のホームページより

保険料納付済期間等の月数(※)支給額計算に用いる数支給額(令和7年度)
6月以上12月未満652,530円
12月以上18月未満12105,060円
18月以上24月未満18157,590円
24月以上30月未満24210,120円
30月以上36月未満30262,650円
36月以上42月未満36315,180円
42月以上48月未満42367,710円
48月以上54月未満48420,240円
54月以上60月未満54472,770円
60月以上60525,300円

厚生年金の脱退一時金(計算の考え方)

脱退一時金(税引前)= 被保険者であった期間の平均標準報酬額 × 支給率

給与額が多く加入が長いほど支給率が上がるシステムになっています。

脱退一時金はいつ申請する?

脱退一時金は、原則として「最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日」から2年以内ですが、資格喪失日に日本国内に住所があった場合は「日本国内に住所を有しなくなった日」から2年以内となります。

脱退一時金申請の流れ(就労ビザで働く人を想定)

ステップ1:退職・転職などで厚生年金の被保険者資格喪失

会社を辞めると、厚生年金の資格を喪失します。

ステップ2:役所で「転出届」を提出

脱退一時金の要件には、「日本国内に住所を有していないこと」が含まれます。

そのため、請求時点で住民票が残らないよう、原則として出国前に、住居地の市区町村役場へ転出届を提出します。

ステップ3:出国後請求・出国前投函の例外

原則として、出国後に(海外から)請求書類を日本年金機構等へ郵送して請求します。

なお、出国前に請求手続きを行うことも可能です。その場合は、転出届を提出したうえで、転出届に記載された転出(予定)日以降に、請求書と必要書類が日本年金機構等へ到着するよう郵送してください。

また、請求書の「住所」欄には、離日後の日本国外の住所を記入してください。日本国内の住所を記入すると、国内居住者として取り扱われ、脱退一時金を支給できないことがあります。

ステップ4:審査 → 支給

提出書類に不備や確認事項がなければ、請求書の受付後、およそ4か月後に支払われます。送金と同時に「脱退一時金支給決定通知書」が送付されます。

※書類に不備がある場合は、決定・振込までさらに時間がかかることがあります。

必要書類:まずは「請求書」と「記入例」を確認

日本年金機構は、脱退一時金請求書(多言語)と記入例を公開しています。請求書はダウンロードのほか、、年金事務所でも入手できます。

必要書類についても、ホームページ内で案内がされていますので、提出前に必ず公式ページで最新情報を確認してください。

厚生年金の税金(20.42%)と、税金還付について

厚生年金の脱退一時金は、非居住者が受け取る場合、支給時に20.42%が源泉徴収されます。

そのうえで、「退職所得の選択課税」による申告を行うことで、源泉徴収された税金の還付を受けられる場合があります

申告・還付の受け取りには、原則として納税管理人の届出が必要です。

比較:国民年金の脱退一時金は、厚生年金の脱退一時金と異なり税金は徴収されません。

よくある不支給・失敗パターン

・住民票が残っている(日本国内に住所がある扱い)

・2年以内に請求しなければならないが、期限を過ぎてしまった

・受給資格期間(10年)を満たしているのに請求しようとしている

【重要】2025年以降、脱退一時金のルール見直しが予定されています

脱退一時金については制度見直し(改正)が進んでおり、主に次の2点が見直しの対象とされています。

① 支給上限(支給上限月数)の引上げ(5年 → 8年)

② 再入国許可を受けて出国した場合は、再入国許可の有効期間中は脱退一時金が支給されない取扱い(見直し

なお、実際の施行日は「公布から4年以内の政令で定める日」とされており、詳細は今後の公表で確定します。

この分野は発表タイミングで取扱いが変わり得るため、申請前には必ず最新の公式情報をご確認ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 日本にいるうちに申請できますか?

出国前に請求手続きを行うことは可能です。

その場合は、お住まいの市区町村に転出届を提出したうえで、転出届に記載された転出(予定)日以降に、請求書と必要書類が日本年金機構等へ到着するよう郵送してください。

Q2. 2年期限はいつから数えますか?

原則は、最後に被保険者資格を喪失した日から2年以内です。

ただし、資格喪失日に日本国内に住所があった場合は、日本国内に住所を有しなくなった日からカウントします。

Q3. 厚生年金の税金は戻せますか?

源泉徴収(20.42%)がある一方で、所定の申告により還付を受けられる場合があります。

Q4. 日本人に脱退一時金の請求はできますか?

できません。外国人のみの制度になります。

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まとめ

脱退一時金は、要件を満たせば帰国後の生活資金として大きな助けになります。一方で、「住所」「期限」「税金(厚生年金)」の3点に関するの取り扱いは、手続きの成否に直結します。

また、制度見直し(上限5年→8年等は外国人にとってメリットである一方、再入国許可中の不支給は大きなデメリットになります。いつから施行されるかを含めて今後はさらに判断が重要になる場面が増える見込みです。

脱退一時金は、加入状況・住民票の状態・出国形態(再入国許可の有無)・税還付の要否によって、最適な進め方が変わります。

「自分が対象になるか不安」「2年期限が迫っている」「厚生年金の税金還付まで一緒に依頼したい」といった場合は、お気軽にお問合せください。