外国人の脱退一時金目的の退職・一時帰国は危険?再雇用時の会社と本人のリスクを解説


はじめに

企業の人事担当者や経営者の方から、次のような相談を受けることがあります。

「雇用している外国人社員から、いったん退職して帰国し、脱退一時金を受け取ったあと、また日本に戻ってここで働きたいと言われた」

「このような対応はできるのか」

「会社として応じても、リスクはないのか」

このような相談は、中小企業の現場では珍しくありません。

この記事で主に取り上げるのは、今後も日本での就労や生活を継続することが前提であるにもかかわらず、脱退一時金の受給を目的として、形式上いったん退職・再入国許可を得て出国し、現在の在留資格を維持したままその後すぐに再入国・再就労するようなケースです。

本件は現行制度上一定の場合には行えてしまう面がありますが、会社側・本人側の双方に相応のリスクがあり、安易に選択すべき対応ではありません。


この記事を書いた人

よしもと国際行政書士・社会保険労務士事務所 代表

行政書士・社会保険労務士

吉本 祐樹(Yuki Yoshimoto)


この記事では、行為そのものの是非を論じるのではなく、会社側・本人側にどのような実務上のリスクがあるのかを整理します。

脱退一時金とは何か

脱退一時金とは、日本で厚生年金や国民年金に加入していた外国人が、一定の要件を満たして帰国した場合に、それまでの加入期間に応じてお金を一時金として受け取ることができる制度です。

厚生労働省は、脱退一時金を日本への滞在期間が短く、将来日本の老齢年金を受け取ることが難しい外国人に対して、一時金を支給する制度として説明しています。

そのため、脱退一時金は、主に日本での生活や就労を終えて帰国する人を想定した制度と理解できます。

本記事で主に想定しているのは、就労継続を前提とした一時帰国・再入国のケースです

まず最初に確認しておきたいのは、日本での就労を終えて母国に帰国し、今後日本に戻ってくる予定のない外国人が、脱退一時金を請求すること自体は、何ら問題のない制度利用であるという点です。

これは、脱退一時金制度が本来想定している場面の一つです。

一方で、本記事で主に想定しているのは、日本での就労や生活を今後も継続することが前提であるにもかかわらず、脱退一時金の受給のために、形式上いったん退職し、再入国許可を得て出国したうえで、その後すぐに再入国・再就労するようなケースです。

このケースは、現行制度上、一定の場合には実際に行えてしまう面があります。

もっとも、2025年の年金制度改正では、再入国許可付きで出国した外国人について、その許可の有効期間内は脱退一時金を支給しない見直しが盛り込まれ、法改正はすでに成立・公布されています。

ただし、この部分は現時点では施行前であり、4年以内に実施されるとされています。

同時に、厚生労働省は、法改正の背景として、老後を日本で暮らす可能性がある外国人が増えていることや、将来の年金受給に結びつけやすい仕組みにすることを挙げています。

したがって、法改正の理由がこの問題に尽きるわけではありませんが、再入国を予定した出国中の脱退一時金受給が、見直しの一つの重要な背景になっていることは十分うかがえます。

そのため、本件については、「制度上請求ができてしまう面がある」ことと、「問題のない適正な制度利用と評価される」ことは同じではない、という点に注意が必要です。

この記事では、行為そのものの是非を論じるのではなく、会社側・本人側にどのような実務上のリスクがあるのかを整理したうえで、慎重に判断するための材料を示します。

一時帰国の脱退一時金受給:会社側のリスク

実質的には雇用継続と見られる可能性

会社側でまず問題になるのは、形式上はいったん退職していても、実質的には雇用が継続していると見られる可能性があることです。

たとえば、

退職前から、帰国後に同じ会社で再び働くことが予定されている

帰国後も、仕事内容や勤務先に実質的な変更がない

退職が実質的な雇用終了ではなく、形式的な手続にとどまっている

といった事情があれば、書類上はいったん退職していても、実質は継続雇用に近いと見られる余地があります。

もちろん、具体的にどのように評価されるかは個別事情によります。

ただ、最初から再雇用を前提にした退職・再入社は、会社にとって慎重に扱うべきです。

社会保険資格喪失処理との関係で問題が生じる可能性

会社は、退職に伴って厚生年金保険等の資格喪失手続を行うことになります。

もっとも、もし実態として雇用が継続していると評価されれば、資格喪失処理がさかのぼって否認される可能性があります。

一律にそのようになるとまではいえませんが、少なくとも形式上退職にしたから大丈夫と安易に考えるべきではありません

とくに、国がこれらの事情を問題視して法改正を行っている以上、今後の制度運用や実務対応が法律が施行される前に変わる可能性も否定できません。

会社としては、単に喪失手続きを行えばいいということだけではなく、後から年金事務所の調査などでこの点を問われた場合に、合理的に説明できる行為であるのかどうかまで考える必要があります。

再雇用後の労働条件トラブル

脱退一時金を受け取るために一時帰国した後、その後の再雇用の条件が曖昧なまま話が進んでしまうことがあります。

実際には、

・帰国後の基本給が下がる

・手当が出なくなる

・勤務地が変わる

・以前と同じ条件で戻れると思っていたのに実際は違った

・口頭説明だけで書面がなかった

といったトラブルが実際に起こっています。

特に注意したいのは、脱退一時金を受給した後に再度来日して再雇用する際、会社側が以前とは異なる労働条件を提示するケースです。

労働条件の変更自体の是非は、ここで論じるものではありませんが、再度雇用する以上、会社としては労働条件を明示する必要があり、労働基準法上、賃金、労働時間その他の一定事項については書面等による明示が必要です。

そのため、例えば労働条件通知書等の書面を交付せず、口頭で「少し基本給下がるだけ」などと曖昧に説明しただけで本人を帰国させ、再入国後にはじめて具体的な条件を示すような後出し的な対応は、単なる説明不足ではなく、労働基準法に違反する対応になります。

実際には、そのような対応の結果、再入国後にはじめて提示された条件に本人が納得できず、退職につながることもあります。

脱退一時金を受け取る外国人社員は、一定期間その会社で勤務してきた人で、業務に慣れた人材である場合も少なくありません。

再雇用後の労働条件を曖昧にしたまま手続きを進めることは、法令違反の問題にとどまらず、結果として会社にとっても人材喪失のリスクにつながります。

再雇用を前提に話を進めるのであれば、賃金、業務内容、勤務地、雇用形態などを明確にし、労働基準法に基づいて労働条件通知書等の書面を適切に交付したうえで、労使双方が再雇用後の労働条件を十分に理解・納得した状態で進めることが重要になります。

一時帰国の脱退一時金受給:外国人本人のリスク

脱退一時金を受け取れない可能性があります

本人としては、脱退一時金を受け取ることを前提に帰国するつもりであっても、実際には受け取れなくなる可能性があります。

上記のように、会社が行った社会保険資格喪失手続について、実質的には雇用が継続していると判断された場合には、社会保険の資格喪失自体が認められなくなる可能性があります。

そうすると、脱退一時金の要件を満たさないことになり、脱退一時金の支給が取り消される可能性が出てきます。

脱退一時金を受け取ることを前提に帰国したにもかかわらず、結果として受け取れない可能性があるということは事前に理解しておいた方がよいでしょう。

この点からも、本件は、目先の手続が通るかどうかだけで判断すべきではなく、本人にとっても相応のリスクを伴う行為であるといえます。

脱退一時金の受給が、将来の年金受給や老後の生活設計に影響する

本人側のリスクとして見落とされがちなのが、将来受け取れる年金や、その後の生活設計との関係です。

脱退一時金を受給すると、それまでの被保険者期間がリセットされてしまいます。

そのため、脱退一時金を受け取ることで、将来日本の年金を受け取るために必要な受給資格期間や、将来の年金額に影響が出る可能性があります。

今回の法改正のねらいのひとつに、「将来の年金受給に結びつけやすくすること」が挙げられているのも、この問題意識に基づくものです。

つまり、脱退一時金は「今まとまったお金が受け取れる」制度ではありますが、その反面、将来の老後資金や年金受給に影響し得る制度でもあります。

実際に、私が外国人の方から脱退一時金申請のご相談を受ける際にも、「とにかく脱退一時金を受け取りたい」という思いが強く、将来の老後資金をどうするのかという点まで十分に考えられていないケースがほとんどです。

また、仮に将来、日本で定年まで働いて会社を退職し、その後も日本で安定して住み続けるためには、「永住」や「日本人の配偶者等」など、就労を前提としない在留資格が必要になると考えられます。

なぜなら、現在は就労しているため「技術・人文知識・国際業務」などの就労資格を有していても、定年退職後に就労しないのであれば、そのまま当然に日本に在留し続けられるわけではなく、就労しなくても在留できる資格への変更が認められなければ、日本に住み続けることはできないからです。

そして、仮にそのような在留資格を得ることができたとしても、脱退一時金を受けることで年金額が少なくなる、あるいは年金を受け取ることができないとなると、老後の生活費の面でも不安が生じます。

例えば、夫婦双方が外国人で、いずれも脱退一時金を受けていたために年金を受給できない、または受給できても年金額がごくわずかであるという場合、老後の生活をどのように支えるのかという問題が生じます。

そのため、本件は単に脱退一時金を受給するかどうかという問題にとどまらず、

・将来、どの在留資格で日本に住むのか

・老後の生活費をどのように確保するのか

・長期的に日本で生活する意思と整合するのか

という、人生設計全体に関わる問題でもあります。

将来のビザ更新・変更、永住資格取得への不利益の可能性

永住許可ガイドラインでは、素行善良要件として、法律を遵守し、日常生活においても住民として社会的に非難されることのない生活を営んでいることが求められています。

また、永住が日本国の利益に合すると認められるためには、公的義務を適正に履行していることなども重視されます。

もちろん、現時点で「脱退一時金を受け取った人は永住が認められない」という公式の発表等があるわけではありません。

しかし、制度趣旨に反するように見える利用などがある場合に、将来のビザ更新・変更、永住審査で全く影響がないと言い切ることもできませんし、在留資格審査が厳格化している昨今の流れを見る限り、ここにも何らかの影響が及ぶのではないかと考えざるを得ません。

少なくとも、法の趣旨を理解し、適正に制度を利用していると評価されるかは慎重に考える必要があります。

入管への届出漏れ

就労系の在留資格を持つ外国人は、会社を退職した場合や、転職で入社した場合、14日以内所属機関等に関する届出入管へ行う必要があります

そのため、

・退職したのに届出をしない

・みなし再入国だから大丈夫と考えて何も届けない

・これを出すと脱退一時金のことが入管にバレるからやめておこう

・会社任せにして本人が届出の必要性を理解していない

といった対応は絶対に避けるべきです。

制度上必要な届出を軽視した場合にも、将来の在留資格更新や変更で不利益に働く可能性があります。

「制度上できるらしい」だけで進めるべきではない

この事案で特に危険なのは、

・友達がやったから自分もやりたい

・まだ制度上できると聞いた

といったあいまいな理由で、メリットだけに意識が向いて行動に移してしまうことです。

しかし、すでに国は法改正を行い、この現状を是正する方向性を示しています。

現時点では制度上可能に見える場面がある一方で、今後の運用や審査で不利益が生じる可能性があります。

そのため、本件は、やはりリスクの高い対応として捉えるのが実務上は適切です。

会社も本人も、「できるかどうか」ではなく、「制度趣旨や将来リスクを踏まえて本当に選ぶべきか」を考える必要があります。

会社として取るべき基本姿勢

会社としては、少なくとも次のような姿勢で臨むべきです。

法令に則った適正な手続きを前提にする

退職、資格喪失、再雇用、在留資格に関する届出などは、すべて実態に即して適正に処理する必要があります。

書類上だけ整えればよいという発想は、大変危険です。

目先のメリットだけで判断させない

本人が希望しているから、以前も似たようなことがあったから、という理由だけで進めると、後で会社側にも不利益が及ぶ可能性があります。

会社の人事担当者様にも、本人に対し、この行為のリスクをしっかりと説明し、合理的な判断を促してほしいと思います。

再雇用条件を曖昧にしない

再入国後の労働条件については、賃金、業務内容、勤務地、雇用形態などを明確にし、書面で提示すべきです(法的義務です)。

専門家と相談しながら判断する

この問題は、年金、社会保険、労務、在留資格等の横断的な法的論点が絡む問題です。

そのため、真偽の分からないネット情報や体験談で判断せず、これらの問題を横断的に判断できる専門家や公的機関に相談しながら進めることが大変重要です。

まとめ|脱退一時金は「今もらえるか」だけで判断してはいけない

脱退一時金を受け取るために、いったん退職・出国し、その後すぐに再入国して同じ会社で働く。

このような対応は、現行制度上、一定の場合には行えてしまう面があります。

もっとも、会社側には社会保険手続や再雇用後の労働条件をめぐるリスクがあり、本人側にも、脱退一時金を受け取れない可能性、将来の年金受給や老後の生活設計への影響、ビザ更新・変更・永住への不利益の可能性、入管への届出漏れといったリスクがあります。

また、再入国許可付きで出国した外国人への不支給は、すでに法改正として成立・公布されており、現時点では施行前であるものの、国としては見直しの方向性を明確に示しています。

そのため、本件については、

・まだできるらしい

・今が最後のチャンス

という発想ではなく、制度趣旨や将来リスクまで踏まえたうえで、本当に適切な選択かどうかを慎重に考えることが重要です。

なお、当事務所では、本件に関するご相談および脱退一時金や社会保険の申請依頼は受け付けておりません。

また、本記事に関する個別のお問い合わせについても対応いたしかねますので、ご了承ください。

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