外国人労働者を適切に雇用・管理するために必要な労働法令および制度についてご説明します。外国人労働者に対しても、日本人労働者と同様に、各種の労働法令が適用されます。
労働基準法は、国籍に関係なくすべての労働者に適用されます。たとえ不法滞在の外国人であっても、労働基準法による保護の対象となります。
労働基準法第3条により、国籍を理由とした賃金、労働時間、その他の労働条件に関する差別的な取扱いは禁止されています。外国人労働者に対しても、日本人と同等の労働条件を確保する必要があります。
「その他の労働条件」には、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎などに関する条件も含まれます。
雇入れ時には、労働条件を文書で明示する義務があります(労働基準法第15条)。外国人労働者に対しては、労働条件通知書に母国語を併記したり、分かりやすい日本語を使用しましょう。また、必要に応じて通訳を同席させるなど、双方が内容を十分に理解し、納得したうえで雇用契約を締結するようにしましょう。
外国語併記の労働条件通知書(厚生労働省 愛知労働局ホームページより)
労働条件の明示において、特に重要な項目が「賃金」です。
日本では、他国と比較して税金や社会保険料などの控除が多く、これに驚く外国人労働者も少なくありません。
そのため、労働条件を説明する際には、控除される項目とその金額(概算)を具体的に示し、実際の手取り額を明確に伝えることが望まれます。主な控除項目は以下のものになります。
①所得税
②雇用保険料
③健康保険料
④厚生年金保険料
⑤住民税(翌年6月から控除開始)
⑥その他の控除額
賃金支払いの5原則(労働基準法第24条)
①通貨払いの原則
賃金は、現金(通貨)で支払わなければなりません。
※労働者の同意がある場合は、銀行口座への振込による支払いも認められます。
②直接払いの原則
賃金は、労働者本人に直接支払う必要があります。
※原則として、親族や代理人への支払いは認められていません。
③全額払いの原則
賃金は、全額を支払わなければなりません。
※ただし、法令または労使協定に基づく控除(例:税金、社会保険料など)は例外として認められます。
<福利厚生費などの控除について>
例えば、会社の福利厚生の一環として従業員から会費を給与から毎月一定額を控除する場合には、賃金控除に関する労使協定を締結する必要があります。なお、この協定は労働基準監督署への届出は不要です。
④毎月1回以上払いの原則
賃金は、少なくとも月に1回以上、定期的に支払わなければなりません。
「2か月に1回の支払い」などは原則として認められていません。
⑤ 一定期日払いの原則
賃金は、あらかじめ定めた一定の期日に支払う必要があります。
【賃金に関するその他の重要事項】
①最低賃金の遵守
外国人労働者を含むすべての労働者に対し、地域別最低賃金(都道府県ごとに定められた時給)を下回る賃金の支払いは禁止されています。最低賃金を下回る契約は無効であり、その差額は支払う義務があります。
②割増賃金の支払い
時間外労働、休日労働、深夜労働(22時~翌5時)については、所定の割増率に基づいた賃金の支払いが義務付けられています。
③賃金台帳の作成・保存
事業主は、賃金の支払状況を記録した賃金台帳を作成し、3年間保存する義務があります。
労働契約に付随して、従業員に貯蓄契約を締結させたり、貯蓄金を事業主が管理したりすることは、労働基準法第18条により禁止されています。外国人労働者の賃金を事業主が管理することも、原則として認められていません。
労働者の退職時には7日以内に賃金を支払い、預り金等を返還する義務があります(第23条)。外国人労働者が帰国する場合も同様です。
労働者が6か月間継続して勤務し、かつ全労働日の80%以上出勤した場合、事業主は年次有給休暇を付与する義務があります(労働基準法第39条)。
2019年4月の働き方改革関連法の施行により、年次有給休暇の取得が義務化されました。使用者は、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、そのうち少なくとも5日分は毎年取得させる義務があります。
外国人労働者の場合、母国への帰省にあたって年次有給休暇をまとめて取得したいという要望があることが多く、連続取得への配慮が望まれます。2週間から1か月程度の長期休暇を希望するケースも多いため、直前での申請では生産スケジュールの再設定や人員配置等のため業務に支障が出るおそれがあります。
そのため、国や地域によって異なる帰省シーズンをあらかじめ把握し、①有給休暇の申請方法、②長期帰省を希望する時期、③その際の事前相談の必要性、などについて入社時点で丁寧に説明し、相互に理解しておくおくことを強くお勧めします。
常時10人以上の労働者を雇用する事業所では、就業規則を作成し、労働者に周知する義務があります。外国人社員に対しては、母国語での翻訳や、簡潔で分かりやすい日本語を用いるなど、内容を正しく理解できるよう配慮することが重要です。
就業規則の周知方法としては、以下のいずれかの手段を用いる必要があります。
・常時、各作業場の見やすい場所に掲示または備え付ける
・書面を交付する
・パソコンなどでデジタルデータとして記録し、従業員がいつでも閲覧できる状態にする(例:社内共有サーバーでの共有など)
寄宿舎を設ける場合には、寄宿舎規則を作成し、所轄の労働基準監督署長へ届け出る義務があります。
ここでいう「寄宿舎」とは、常態として相当数の労働者が宿泊し、共同生活の実態を備える施設であり、事業の一部として設けられたもの(事業との関連性を持つもの)をいいます。
そのため、労働者が独立して生活できる社宅や、会社が借り上げたマンション・アパートに従業員を住まわせる場合は、寄宿舎には該当しません。
外国人労働者向けの寄宿舎を設置する際には、以下の点にも注意が必要です。これらの対応を通じて、外国人労働者が安心して生活できる環境づくりを行うことが求められます。
・衛生・防火・保安等に関する法令遵守
・文化的・宗教的背景に配慮した居住環境の整備
・近隣住民とのトラブルを防ぐための生活マナー教育 例:ごみの分別・ごみ出しルール、騒音対策、駐輪・駐車のルールなど
社員を雇用すると、社会保険や労務管理とあわせて「労働安全衛生法上の義務」が発生します。
労働安全衛生法は、国籍に関係なくすべての労働者に適用され、たとえ不法就労中の外国人であっても保護の対象となります。
・雇入時健康診断(保存5年)
・定期健康診断(年1回、保存5年)
・雇入時・作業変更時の安全衛生教育
・衛生管理者の選任
・産業医の選任(労基署へ選任届提出要)
・衛生委員会の設置
・定期健康診断結果報告書の提出(翌年6月末)
・ストレスチェックの実施(年1回、結果報告・保存5年)
・高ストレス者や長時間労働者に対する医師の面接指導
・健康管理手帳制度の説明・申請支援(該当者のみ)
雇入時および定期的(1年に1回)に健康診断を実施する義務があります。
有害業務に従事する労働者には半年に1回、特殊健康診断を実施する必要があります。
健康診断の結果に基づき、医師または保健師による保健指導を実施する必要があります。外国人労働者には通訳を介しての対応が望まれます。
ストレスチェックとは、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気づきを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団ごとに集計・分析し、職場におけるストレス要因を評価し、職場環境の改善につなげることで、ストレスの要因そのものも低減させることを目的としたものになります。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年1回のストレスチェックを実施する義務があります(第66条の10)。常時雇用する従業員が50人未満の労働者を使用する事業所は、2025年4月時点では努力義務とされていますが、将来的に義務化する方向で議論がされています。
ストレスチェックの対象となる外国人労働者に対しては、理解できる言語での実施が望ましいです。通訳を入れる、翻訳アプリを利用して回答してもらう、多言語対応のストレスチェックシートを提供している事業者と契約してストレスチェックを実施する等が考えられます。
粉じん作業、石綿取扱い業務など特定の有害業務に従事していた者には、離職後も健康管理を支援する制度があります。外国人労働者が帰国する場合でも、該当者に対して制度の説明と申請支援が必要です。
長時間労働によって疲労が蓄積し、健康障害のリスクが高まった社員に対しては、医師が問診などを通じて健康状態を把握し、本人に対して指導を行うとともに、その結果を踏まえた事後措置を講じることが求められます。
長時間労働者(月80時間を超える時間外・休日労働)や高ストレス者に対しては、労働安全衛生法第66条の8および第66条の10に基づき、医師による面接指導の実施が必要です。この際、状況を正確に伝えるため、外国人労働者に対しては通訳の同席など、必要な言語サポートを提供することが望まれます。
雇入れ時や作業内容変更時には安全衛生教育を実施する義務があります。外国人労働者が理解できる言語での安全標識・掲示物の設置や、多言語マニュアルの整備が効果的です。
・健診・ストレスチェックは、理解できる言語で実施か、日本人がやさしい日本語で説明
・通訳や翻訳アプリの利用、多言語対応の書類の導入
・安全衛生教育も母国語資料や図解を用いると効果的
当事務所(行政書士・社会保険労務士)では、以下の業務をサポートします。
・健康診断・ストレスチェック体制づくりのサポート
・記録保存や労基署提出書類の作成・提出
・産業医選任・衛生委員会の運営サポート
・外国人労働者向けの多言語対応アドバイス
まずは無料相談で、御社に必要な対応を一緒に確認しましょう。
労働者災害補償保険法は、労働者が業務中または通勤途中に負ったけがや病気、さらには死亡などの災害に対して、必要な補償を行うことを目的とした法律です。この制度は、労働者が安心して働けるよう、治療費や休業中の所得補償、障害や死亡に対する補償など、幅広い給付を提供しています。制度の運営は政府(厚生労働省)が行い、保険料は原則として事業主が全額を負担します。また、労災保険は労働者本人に過失があった場合でも、原則として給付の対象となる点も特徴です。さらに、日本国内で働くすべての労働者に適用されるため、外国人労働者も対象となります。
業務上・通勤途上の災害に対して、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料などが支給されます。帰国後も継続して給付を受けることが可能です。
雇用保険法は、労働者が失業したときや、育児・介護などにより働けない状態になったときに、生活の安定と早期の再就職を支援することを目的とした法律です。
主な給付内容としては、失業した際に支給される「基本手当」や、育児・介護のために休業した場合に支給される「育児休業給付」や「介護休業給付」などがあります。また、再就職やキャリアアップを目指す人への職業訓練や教育を支援するための「教育訓練給付」も設けられています。
これらの給付は、労働者と事業主が共同で負担する保険料によって運用されており、原則として雇用されているすべての労働者が対象となります。雇用保険法は、働く人の生活と雇用の安定を図るために、重要な役割を果たしています。
雇用保険の適用対象となるのは、原則として以下の2つの条件を दोनों満たす労働者です。
①1週間の所定労働時間が20時間以上であること
・残業時間や臨時の労働時間は含みません。
・パートやアルバイトの方でも、この条件を満たせば対象となります。
②31日以上の雇用見込みがあること
・雇用契約期間が31日以上である場合
・雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇い止めが明示されていない場合
・雇用契約に更新規定はないが、同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合
・当初は31日以上の雇用が見込まれなかった場合でも、その後31日以上雇用されることになった時点から適用されます
ただし、上記の条件を満たしていても、以下の場合は雇用保険の適用除外となります。
・65歳に達した日以後に新たに雇用される方 (高年齢被保険者となります)
・昼間学生 (ただし、卒業見込みのある者や休学中の者など、例外的に被保険者となる場合があります)
・船員 (一部例外あり)
・国家公務員、地方公務員 (他の法令や制度で保障されているため)
・季節的な業務に4ヶ月以内の期間を定めて雇用される方 (一定の条件あり)
・1週間の所定労働時間が30時間未満の季節労働者 (一定の条件あり)
・日々雇用される方 (日雇労働被保険者として別途取り扱い)
・事業主と同居の親族 (原則として適用除外ですが、就業の実態により労働者性が認められる場合は被保険者となることがあります)
・法人の代表者や役員 (原則として適用除外ですが、労働者性を有する場合は被保険者となることがあります)
・海外で現地採用された方